戀愛のあらゆるはじめてを描く『はじめてのひと』 私たちはいつまでも谷川史子に泣かされ続ける

私たちは谷川史子に泣かされ続ける

 『ココハナ』(集英社)で連載中のマンガ『はじめてのひと』(谷川史子)は、大人になってから體験するさまざまな戀愛の「はじめて」を描いたオムニバスシリーズだ。

 すべての人が、大人になる過程で、たくさんの「はじめて」を経験してきたはずだ。それでもまだ「はじめて」は突然やってくる。どうしていいか分からず、戸惑い、時には涙する。そんな大人の「飾らない部分」がこまやかに描寫されている。本稿では、全6巻のエピソードの中から、いくつか戀愛における「はじめて」の物語を2編紹介したい。

はじめて愛した人は家庭のある人でした

 発売されている単行本6巻の中で、橘與(たちばなくみ)の物語が1番の長編だ。博物館で美術作品の修復士として働く與。あるとき誘われて行ったライブでチェロ奏者の16歳年上の諏訪內と出會う。

「朗らかで、笑った顔がかわいらしくて人懐っこくて、でも時々ちょっと寂しそうで」

 與を「ワンコくん」と呼び、いつも笑顔の諏訪內に、與は次第に惹かれていく。そして、諏訪內も。両想いになり、幸せに浮かれる與だったが、やがて諏訪內には妻と娘がいることを知る。

「家族がいてもいい」「諏訪內さんの人生のついでなんて嫌だ」「犬なら大好きなことも隠さなくていいのに」

 與の心は振り子のように揺れる。それでも、ずっと一緒にいたい。「一生そばにいたいです」。そう與が伝えた瞬間に、諏訪內は「重いよ」と突き放す。もちろん、與の將來を考えてのことだ。が、読者は知っている。いい人そうに見えても、諏訪內がやっていることはいけないことなのだ。與のキラキラした“はじめて”の戀心を丁寧に描きながらも、諏訪內の愚かさも突き付ける。殘酷だが、そこにリアリティがあるエピソードだ。

結婚を前にした大人の戀の「はじめて」

 第6巻に登場するのは、39歳の稅理士の女性?蒔田と50歳の漫畫家の男性?倉間の物語。倉間からエンゲージリングをプレゼントされ、お禮として腕時計を贈ることを考える蒔田。しかし、腕時計を選ぶ段になって倉間からは「いらない」「ほんとうにほしくないんだ。君からはなにも」と言われる。自分と結婚をしたくないのか、とショックを受ける蒔田だったが、実は倉間なりの理由があって……。

 好きだという気持ちは年を重ねても変わらない。ただ、結婚をするとなると少しだけ気持ちは変わってくる。若いときは、2人の時間が永遠のように感じられる。しかし、年を重ねると自分たちの気持ちだけではどうにもならない別れの可能性も考えるようになる。だからと言って、別れがないように誰とも一緒にならなければいい、というのも極端だ。

 戀の“はじめて”は、年齢そのときどきによって違う。初戀じゃなくても、たくさん戀をしたあとにもはじめての戀はまたやってくるのだ。



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